ガチャ小説
地球侵略
胸が“きゅっ”
この地球という惑星には、「ガチャ®」なるものがあるらしい。
地球侵略の下調べとして派遣された私だが、この星の文化は不可思議で興味深い。母星への報告を定期的にこなしつつ、私はだんだんこの星に魅了されていった。
高い知性や技術を持ちながらも、この星の人間という生き物は、無駄なことばかりに力をそそぐ。実質的な利益を生まない「感情」を動かす「おもちゃ」や「アソビ」を、人間はとても大切にしているらしい。
なかでも私が理解し難いのは、なぞのちいさなカプセル、「ガチャ®」だ。あんなにちいさなものに労働を通して得た貴重な金を使うなんて、意味がわからない。だが人間がそんなに熱狂するのだから、ものすごく特別なものが入っているのだろう。気になる。
これも侵略の第一歩。できるだけ人間らしい格好をして、無数のガチャマシンがならぶ店内へ調査へ向かう。とりあえず、この「宇宙」をテーマに製造したらしい品をねらおう。
ハンドルを握り、ぐいっと回す。まだか?もう少しか?予想よりもしっかりとした手応えを感じる。やがてガチャガチャッと音を立て、カプセルが落下。緊張しつつ開けてみると、ほとんどの人間が好むという「ネコ」と呼ばれる動物が、地球の宇宙飛行士の格好をして、私を見つめてくる。つぶらな瞳をじっと見つめていると、なんだか胸が“きゅっ”となった。もしや、これはこの国の人間がやたら口にする「カワイイ」という感情なのではあるまいか。
気が付けば、私は次から次へとガチャ®を回している。たっぷりもってきたはずの100円玉は、いつのまにかなくなってしまった。
やるな、人間。空の財布をにらみながら、私は顔をしかめる。
しかたがない。またバイトなるものをして、金を稼ぐか。今度は仲間を連れてこよう。
地球侵略への道のりは、まだまだ遠い。