ガチャ小説
私とお父さん
にこにこ
お父さんのこと、きらいなわけじゃない。けれど、小さな頃に比べてずいぶん会話は減ってしまった。お母さんとは割となんでも話すけど、お父さんとは共通の趣味も話題も特にない。家にお父さんしかいない時は、自分の部屋にこもりがちだ。
高校3年になったある日、保護者同伴での大学説明会の通知が届いた。お母さんはどうしても仕事で行けなくて、お父さんが付いてきてくれることになった。2人きりは、正直気まずい。ぎこちない距離感で駅構内を歩く途中、たくさん並ぶガチャマシンの前で、お父さんが立ち止まった。
「お前このキャラ好きだよな?」そう唐突に話しかけられて面食らってしまったけど、お父さんが指差すガチャ®は、確かに私が最近大好きなキャラクターだ。普段会話しないのに、なんでそんなこと知ってるんだろう。
「そうだよ。なんでわかったの?」と私がたずねると、「わかるさ、家族だぞ?」苦笑しながら、お父さんが答える。そっか、ソファー越しに見えたあの背中は、テレビの音だけじゃなく、私とお母さんの会話も、ちゃんと聞いてたのか。「まだ時間も余裕あるし、やってみるか?」とお父さんは財布から100円玉を取り出し、小さな頃みたいに私に渡す。
急に照れ臭くなりつつも「ありがと」となんとか答え、二人でガチャマシンの前にしゃがみこむ。ハンドルをまわす感覚も、すごく久しぶりだ。ガチャガチャッと音を立てて落ちてきたカプセルを、少し緊張しながら開けてみる。
「えっうそ!シークレットじゃん!」思わず声をあげて、お父さんの顔を見る。お父さんはにこにこ笑っていて、私も自分が自然と笑っていることに気がついた。
そういえばいつかもこんなふうに、一緒にガチャ®まわしたね、お父さん。
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