ガチャ小説
ぼくと好きな子
ガチャデート
ぼくには今、気になる人がいる。友達に誘われて入った、写真サークルで出会った女の子。
人見知り気味なぼくにもみんなと同じように話しかけ、誰かの何気ない冗談に屈託なく笑う。いつも彼女の周りだけほんのり明るく見えるから、ぼくは彼女がどこにいたって見つけられる自信がある。
大学生活に少しずつ慣れ始めた初夏のこと。誰が言い出したのかわからないけど、サークルメンバーでテーマパークに出かけることになった。彼女は計画段階からずっと大はしゃぎ。実はイベント毎に通うほど大好きで、他の誰よりキャラクターに詳しかった。聞けば、今はとあるキャラクターガチャのコンプを目指しているらしい。「どうしても、あのキャラが出ないんだよね。」眉をハの字にゆがめて、彼女はくやしそうに言っていた。
もっと彼女と話したい、でも2人で遊びに誘う勇気もない。もやもやを抱えたまま過ごしていたある日のバイト帰り、いつもは素通りするガチャマシンの中に、彼女が話していたキャラクターのガチャ®を見つけた。
ふと『彼女の目当てのガチャ®が出たら、告白しよう』という突拍子もない考えが頭に浮かぶ。さっそくマシンの前にしゃがみこんで、回してみるけど、ほらね、やっぱりそんなに簡単に出るわけない。でも、そんなに簡単にあきらめたくもない。
もう一度回す。出ない。回す、出ない。回す。出ない…。何度もマシンのハンドルを回すたび、いつのまにかぼくは消化不良で終わった過去の恋を思い出していた。ぜんぜんうまく話せなくて、1ヶ月でふられた高2の恋。クッキーを渡せなかった、中1のホワイトデー…。
次々頭に浮かぶ情けない恋が、ガチャガチャッと音を立てながら落ちていく。『結果だめでも、ぼくはもう、後悔しないでいたいんだ。』ハンドルと一緒に、ぼくの頭の中もぐるぐるまわる。
結局10回まわしたけどでなくて、でもなぜだかぼくの心はすっきり晴れていた。
明日はきっと、彼女をガチャめぐりデートに誘おう。