ガチャ小説
準備万端!
まだ終わってない
入社5年目、重大な案件をプレゼン段階から任されることになった。先輩が築き上げた信頼関係を崩さぬように、そしてよりプロジェクトを飛躍させられるように。
プレッシャーが大きいからこそ、悔いのないよう準備は万端に整えた。移動時間も無駄にはできない。クライアントの本社がある関西へ向かう飛行機の中でも、ギリギリまで質疑応答をシミュレーションしていた。
けれど。タイムスケジュールが押し、結果的に与えられたプレゼン時間は想定の半分近くに短縮されてしまった。あわてるあまりに大事なポイントを伝えきれず、最後の質疑応答もしどろもどろ。いやな汗をかいたまま、混乱した頭でオフィスを後にした。
ふつふつと悔しさが込み上げる帰路。早めに着いた空港で『終わった』と思いながら呆然としていると、いつもは目に入らないシュールな動物キャラクターのガチャマシンが気になった。“トラんすふぉーむ”と題された、トラがいろんな動物に変身したフィギュア。
『へんなの』そう思ったけれど、不安な気持ちを紛らわせたくて、まわしてみることにする。出てきたカプセルをパカっとあけて中身を取り出すと、まあるいフォルムが手のひらに寝そべる。『なんでトラなのにアザラシなんだよ』心の中で、笑いながら突っ込んでしまう。
スーツの胸ポケットにしのばせ、ポンッとたたいてみると、トラのように勇んでいた心がアザラシみたいにまあるくなっていくような気がした。
『そうだ、クライアントからの最後のあの質問、こんな解釈もできるはず。追ってメールしておこう。』自然と頭に浮かんだアイデアを整理しながら、『まだ全然、終わってないじゃないか』と素直に思う。
小さくふくらんだ胸ポケットをチラリと見て、搭乗ロビーへ歩き出す足取りは、さっきより軽い。
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